山梨県、北杜市。ある原野に、ひとつのサウナがある。まわりに、人家はない。水風呂は、すぐ脇を流れる沢。春は十四度、夏は十八度、冬は八度前後。水底が見えるほど、澄んでいる。火は百度を超える。場所は明かさない。地図にはない。ここを知るには、招かれるしかない。
検索しても、出てこない。
地図にも、ない。
通知は鳴らず、おすすめも、表示されない。
あるのは、火と、湯と、沢の音だけ。
ここでは、何ひとつ最適化されない。
ここに、通知はない。
持ってきた情報は、ここに置いていく。
足についた土を、払う。
沢の石を動かし、流れを少し、堰き止める。
今日は浅い。今日は、冷たい。
火を入れる。煙の匂いが、つく。
森のなかに、椅子を置く場所を探す。
それだけで、いい。
サウナと外気浴のあいだに、屋根を張った。雨でも、雪でも、そのまま続けられる。
天気は、選べない。だから、選ばなくていいようにした。
倒れた木を、その場で伐る。玉に切り、割り、積む。外から運び込むものは、ない。
立っている木には、手をつけない。森から取るのではなく、森が落としたものを、もらう。
火を焚く一日の前に、火を焚くための一日がある。
澄んだ沢が、絶えず流れている。
▶ タップで再生(音あり)
ホースを上流へ一本。ポンプはない。落差だけで、水は落ちてくる。
浸かっているあいだも、水は入れ替わりつづける。溜めた水ではない。
使った水は、沢へ戻さない。浸透マスへ落とし、土を通して返す。引いた沢は、引いたときのままにしておく。
水温を決めるのは、季節だ。こちらでは、決めない。
半径五百メートルに、人家はない。つまり、この沢に何かを流しても、それを薄めてくれる人が上にいない。ここが、いちばん上だ。
石けんは、沢では使わない。洗い物もしない。使った水は浸透マスへ落とし、土を通して返す。灰は流さない。持ち込んだものは、持ち帰る。
石を動かさない。淵を埋めない。堰き止めたら、帰りに戻す。半日で作った流れの形は、この沢が何百年かけて作ったものだ。
ここを出た水は、下って釜無川に入り、富士川になり、駿河湾へ出る。手を抜けば、それが百キロ先まで行く。
水は、借りているだけだ。
火と水のほかに、用意したものは、ない。
残りは、この土地をどう過ごすか——それだけだ。
沢で遊ぶ。釣りをする。焚き火を熾し、炭火で肉を焼く。
木を削り、土に触れる。オロポも、ビールも、沢が冷やしてくれる。ときに、何もしない。
まわりに人家はない。だから、好きな音楽を、好きな音量でかけられる。誰の迷惑にもならず、誰も見ていない。ペットも、一緒に来ればいい。天然の沢だから、サワガニと遊べる。人のいる場所でも、つくられた水でも、できないことだ。
セルフ方式だから、時間に決まりはない。
昼に火を入れても、夜を明かしても、いい。好きな時間に来て、好きなだけ過ごす。
決められた過ごし方は、ない。使い方に、限りもない。
自然のなかにいると、ストレスホルモンが下がる。からだは、緊張から休息の側へ傾く。森林を対象にした研究が、繰り返し確かめてきたことだ。
一時間ほど身を置けば、すり減った注意は回復に向かう。暑い日も、寒い日も、その効きは変わらないという。
孤独の研究は告げる——安全だと感じられるなら、誰かといるより、ひとりのほうが深く回復する、と。
鍵は、安全。だから湧火は、無人を放置にしない。審査と予約、いつでも連絡が取れる設計の上に、半径500mの静けさを置いている。
棟は、ひとつ。同じ時間を、ほかの誰かと分け合うことはない。
火のはぜる音。沢のせせらぎ。自然の音は、休息をつかさどる神経のはたらきを高める。ここにあるのは、それだけだ。
大げさな効能は、約束しない。ただ——何も要求されない時間と、守られたひとりは、いまもっとも得がたいものだと、知っている。
出典:Park et al. 2010/Berman et al. 2008/Staats & Hartig 2004 ほか
湧火は、完成された施設ではありません。
原野に火を入れ、水に入り、少しずつ育てていく場所です。
軽トラックが一台、板を渡って原野に入っていく。
石を除け、草を刈り、火を焚く場所を、手でつくっている。
この開拓に加わる人を、探しています。
汗をかいた日の終わりには、薪の火と、沢の水。
メールに「開拓」と一言、お送りください。
日程と内容は、返信でご案内します。
ここにあるものは、たいてい、手で作った。
薪棚も、流し台も、この風呂も。
ドラム缶を据え、沢の水を引く。ブロックを積み、板を渡す。
買えば、早い。それでも、作る。
作った風呂に、沢の音を聞きながら、浸かる。
その時間だけは、どこにも売っていない。
山梨県北杜市。八ヶ岳と南アルプスに挟まれた、県内でもっとも広い市。名水百選が三つあり、市内に二つのユネスコエコパークが重なる。
はじめは、沢のある土地を探していただけだった。地図を引き、登記を取り、手紙を書いた。断られ、また書いた。譲ってくださった方がいた。会いに行くうちに、土地より先に、この土地の人を好きになっていた。
いま湧火が焚いている火は、この市の山から出た薪で、この市の沢の水で冷ましている。よそから運び込んだものは、何もない。
ここでなくてもよかった、とは、もう思えない。
甲斐駒ヶ岳の麓。山梨の、小さな私有地から始めた。
火と、水と、土。ここにあるものを、手で作る。
この場所を、いつか、国を越えて訪ねてもらう。
派手にではなく、静かに。ここから。
検索しても、出てきません。地図にも、ありません。
訪れる方法は、招かれること、ただひとつ。
最初に招く数名——火守(ひもり)に、便りを送ります。
ご登録後、所定の審査があります。
場所と料金を、外に明かさないこと。火と水と、人への礼を守ること。
審査を経て火守となった方は、会員ページから、希望の日時を1時間単位で予約できます。
※これは予約の受付ではありません。最初の招待を、最初にお届けするためのものです。
または info@yu-ka.spaceへ直接どうぞ。
移動は、負担にならない。中央自動車道を西へ走る。富士山を背に、南アルプスを横目に、甲府盆地が開ける。
高速を降りてからが、いい。信号が減る。対向車が減る。道の両側が畑になり、正面の山が、少しずつ大きくなる。
窓を開けると、空気の温度が変わる。標高が上がっていることが、体で分かる。
東京から二時間。長い、と思うかもしれない。けれど、退屈なのは、はじめの一時間半だけだ。
着く前から、始まっている。
中央自動車道・須玉ICから、車で二十分。
首都高・新宿ICから、車で二時間。
JR中央線・日野春駅が最寄り。
到着も退出も、時間に決まりはありません。鍵の受け渡しもなく、セルフでお入りいただけます。
正確な場所と道順は、招かれた方にお伝えします。
高精細な地形データと登記所備付地図から、沢に隣接・通過する地番を抽出・評価する検索システム「fumibi」。キャンプ場やセルフビルドの土地さがしに。
fumibi を見る →
ジムニー専用の私有地オフロード「野火(NOBI)」を、自動車雑誌「ベストカー」の連載「アポなし日本全国電話調査」でご紹介いただきました。
紙面の掲載につき記事リンクはありません。掲載号は書店・コンビニ・電子版にて。
山梨県中・西部(北杜市)/気象庁 8月29日 17:00発表